夜知富許能 迦微能美許登波 夜斯麻久爾 都麻麻岐迦泥弖 登富登富斯 故志能久邇邇 佐加志賣遠 阿理登岐加志弖 久波志賣遠 阿理登伎許志弖 佐用婆比爾 阿理多多斯 用婆比邇 阿理加用婆勢 多知賀遠母 伊麻陀登加受弖 淤須比遠母 伊麻陀登加泥婆 遠登賣能 那須夜伊多斗遠 淤曾夫良比 和何多多勢禮婆 比許豆良比 和何多多勢禮婆 阿遠夜麻邇 奴延波那伎 佐怒都登理 岐藝斯波登與牟 爾波都登理 迦祁波那久 宇禮多久母 那久那留登理加 許能登理母 宇知夜米許世泥 伊斯多布夜 阿麻波勢豆加比 許登能 加多理其登母 許遠婆
爾其沼河日賣、 未開戸、 自内歌曰、
夜知富許能 迦微能美許等 怒延久佐能 賣邇志阿禮婆 和何許許呂 宇良須能登理叙 伊麻許曾婆 和杼理邇阿良米 能知波 那杼理爾阿良牟遠 伊能知波 那志勢多麻比曾 伊斯多布夜 阿麻波世豆迦比 許登能 加多理碁登母 許遠婆
阿遠夜麻邇 比賀迦久良婆 奴婆多麻能 用波伊傳那牟 阿佐比能 惠美佐加延岐弖 多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 曾陀多岐 多多岐麻那賀理 麻多麻傳 多麻傳佐斯麻岐 毛毛那賀爾 伊波那佐牟遠 阿夜爾 那古斐支許志 夜知富許能 迦微能美許登 許登能 迦多理碁登母 許遠婆
故、 其夜者、 不合而、 明日夜、 爲御合也。
又其神之嫡后、 須勢理毘賣命、 甚爲嫉妬、 故其日子遲神、 和備弖三字以音、 自出雲將上坐倭國而、 束裝立時、 片御手者、 繋御馬之鞍、 片御足、 蹈入其御鐙而、 歌曰、
奴婆多麻能 久路岐美祁斯遠 麻都夫佐爾 登理與曾比 淤岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許禮婆布佐波受 幣都那美 曾邇奴岐宇弖 蘇邇杼理能 阿遠岐美祁斯遠 麻都夫佐邇 登理與曾比 於岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許母布佐波受 幣都那美 曾邇奴棄宇弖 夜麻賀多爾 麻岐斯 阿多泥都岐 曾米紀賀斯流邇 斯米許呂母遠 麻都夫佐邇 登理與曾比 淤岐都登理 牟那美流登岐 波多多藝母 許斯與呂志 伊刀古夜能 伊毛能美許等 牟良登理能 和賀牟禮伊那婆 比氣登理能 和賀比氣伊那婆 那迦士登波 那波伊布登母 夜麻登能 比登母登須須岐 宇那加夫斯 那賀那加佐麻久 阿佐阿米能疑理邇 多多牟叙 和加久佐能 都麻能美許登 許登能 加多理碁登母 許遠婆
爾其后、 取大御酒坏、 立依指擧而歌曰、
夜知富許能 加微能美許登夜 阿賀淤富久邇奴斯 那許曾波 遠邇伊麻世婆 宇知微流 斯麻能佐岐耶岐 加岐微流 伊蘇能佐岐淤知受 和加久佐能 都麻母多勢良米 阿波母與 賣邇斯阿禮婆 那遠岐弖 遠波那志 那遠岐弖 都麻波那斯 阿夜加岐能 布波夜賀斯多爾 牟斯夫須麻 爾古夜賀斯多爾 多久夫須麻 佐夜具賀斯多爾 阿和由岐能 和加夜流牟泥遠 多久豆怒能 斯路岐多陀牟岐 曾陀多岐 多多岐麻那賀理 麻多麻傳 多麻傳佐斯麻岐 毛毛那賀邇 伊遠斯那世 登與美岐 多弖麻都良世
如此歌、 卽爲宇伎由比四字以音、 而宇那賀氣理弖六字以音、 至今鎭坐也。 此謂之神語也。
この八千矛神大國主のことは、高志國北陸の「越」のことであるとされるの沼河比賣と結婚するために高志までお出ましになり、その沼河比賣の家に到著したときに歌われました。
八千矛の 神の命は 八洲国 妻求ぎかねて 遠々し 高志の国に 賢し女を 有りと聞かして 美し女を 有りと聞こして さ婚ひに あり立たし 婚ひに ありか呼ばせ 太刀が緒も 未だ解かずて 襲をも 未だ解かねば 乙女の寝すや 板戸を 押そぶらひ 吾が立たせれば 引こづらひ 吾が立たせれば 青山に 鵺は鳴きぬ 狭野つ鳥 雉子は響む 庭つ鳥 鶏は鳴く うれたくも 鳴くなる鳥か この鳥も 打ち止めこせね いしたふや 天馳せ遣ひ 事の語り 外面此をば
(大國主である私)八千矛の神は日本中から妻を探したところ越の國に賢く美しい女性がいると聞き、何度も求婚し承諾を求め、刀の紐も襲≒衣褌=垂領も解かずに、乙女が寢ているかと部屋の板戶を押そうとして引こうとしてそう出來ずに私が立っていると、夜が明けて靑く繁る山に鵺が鳴く。野鳥のキジが騷ぎ、庭のニワトリが鳴く。鳴く鳥がいまいましい。このように鳥が鳴かないように天に使いを出して慾しい。言葉で表します。外でこれを。
それに(對して)、沼河比賣は戶を開けず部屋の中から歌ってこう言いました。
八千矛の 神の命 萎草の 女にしあれば 吾が心 浦洲の鳥ぞ 今こそば 吾鳥にあらめ 後は 汝鳥にあらむを 命は な殺せ給ひそ いしたふや 天馳せ使ひ 事の語り言も 此をば 青山に 日が隠らば 射干玉の 夜は出でなむ 朝日の 笑み栄え来て 栲綱の 白き腕 沫雪の 若やる胸を 素手抱き 手抱きまながり 真玉手玉手 差し枕き 股長に 寝は寝さむを奇に 汝恋ひしきし 八千矛の 神の命 事の語り言も 此をば
八千矛の神の命に申します。私はなよなよととした女なので、心は海邊の州にいる鳥のように全く落ち著きません。今は私の鳥ですが、後にはあなたの鳥になるので、どうか鳥を殺さないで下さい。天の使いに語ります。これを。
靑く繁る山に日が隱れれば、ぬばたまの實のように眞っ暗な夜となり、朝日が微笑むように昇り榮えれば、楮で作った綱のように白い腕、淡雪のように柔らかく若い私の胷を素手で抱いて、見つめ合って、玉のようなあなたの手と私の手で腕枕して、足を伸ばして一緖に寢ます。不思議にあなたのことを戀しく思います。八千矛の神の命に言葉で語ります。これを。
このように言われたので、その夜は會わずに翌日の夜にお會いになりました。會う=結婚したということ。
また、その正妻である后の意味須勢理毗賣命はとても嫉妬されたので、日子遲の神日子遲神=八千矛の神=大宂牟遲神=大國主のことはこれを侘て謝罪の「詫」ではなく、「侘」はうんざりしての意味出雲から倭の國奈良縣に進出しようと出立する際に、服裝を整え、片手で馬の鞍を掴み、足を鐙に入れて歌われました。
射干玉の 黒き御衣を 真具さに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此れは相応はず 辺つ波磯に 脱ぎ棄て 鴗鳥の 青き御衣を 真具さに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此も相応はず 辺つ波磯に 脱き棄て 山県に蒔きし あたね舂き 染めきが汁に 染め衣を 真具さに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 はたたぎも 此し宜し 愛子やの 妹の命 群鳥の 吾が群往なば 引け鳥の 吾が引け往なば 泣かじとは 汝は言ふとも 倭の 一本薄 頂傾し 汝が泣かさまく 朝雨野霧に 立たむぞ 若草の 妻の命 言の語り事も 此をば
ぬばたまのように黑い衣裝をしっかり準備しました。沖の鳥が自分の(胷にくちばしを突っ込むように)胷を見て羽を輕く廣げるように(袖を持って腕を廣げて)身繕いしましたが(この衣裝は)好みに合いません。濱邊に寄せた波が引くように著物を脫ぎ捨てて、カワセミのように靑い衣裝をしっかり準備しました。同じように沖の鳥が胷を見て羽を廣げるようにして身繕いしましたが、これも同樣に氣に入らないので、磯の波が引くように脫ぎ捨てて、山の畑に種を蒔いて育てた染め草を舂いて、草木染めの汁で染めた衣裝を同じように沖の鳥が胷を見て羽を廣げるようにして身繕いしたところ、これはとても良いです。愛おしい妻の命よ、私が鳥の羣れのよう先頭に立ってどこかに行ってしまっても泣かないとあなたは言うだろうが、
倭國でススキが一本雨露に濡れて穗先が下がるとあなたが泣くのを思い、朝の雨、霧の野に立つでしょう。若草のような妻の命に。この言葉を送ります。
するとその后である須勢理毗賣命は酒盃を取って立ち上がり大國主にそのお酒を差し上げて歌われました。
八千矛の 神の命や 吾が大国主 汝こそは 男に坐せば 打ち見る嶋の 先や来掻き廻る 磯の埼落ちず 若草の 妻持たせらめ 吾はもよ 女にしあれば 汝招きて 男は爲し 汝招きて 妻は爲し 綾垣の ふはやが下に 苧衾 柔やが下に 栲衾 さやぐ下に 沫雪の 若やる胸を 栲綱の 白き腕 素手抱き 手抱きまながり 真玉手玉手 差し枕き 股長に 寝を爲寝せ 豊御酒 奉らせ
あなたは八千矛の神の命ではなく、私の大國主です。他所の女の呼び方が氣に入らないという意味か? あなたこそは私の夫であって、あなたはこの先に見える島や岬を巡り若草のような妻をお持ちになるでしょう。私は女なのであなたを招いて夫にし、あなたを招いて妻になります。 太絲で織った絹布の幕がゆらゆら搖れる下で、苧麻(からむし)で作ったの布團の中で、コウゾの纖維で作った布團の中で、 淡雪のように柔らかい若い私の胷を、コウゾで作った綱のように白い私の腕を素手で抱きしめて、見つめ合って、玉のように美しいあなたと私の手をお互いに腕枕にして足を伸ばしてゆっくり寢てください。そして、お酒を召し上がってください。
まとめると、「今後の浮氣は氣に入らなくても咎めないから、ときどき家に歸ってきて仲良くしてね」
この歌のように盞結い固く約束しし、項がけりて=傾けて≒もたれかかって≒よりそって仲睦まじく出雲大社に鎭座して現在に至ります。
この謂れは神の語りです。
この頁では「まながる」を「見つめ合って」という意味にしましたが、目を見合わせるとは別に「手をさし交わして抱く」という意味もあり、ここではどちらも當てはまりそうです。